想い合う兄ィニィと妹「涙そうそう」
2006年12月11日 22:06
(しばた@OHPのオススメ漫画)
「涙そうそう」というと、歌謡曲のイメージが強いという人は多いだろう。今回紹介するのは、その「涙そうそう」の映画版を、さらに漫画版にした作品。というと「なーんだ、映画化便乗のメディアミックスか」と思う人もいるかもしれない。しかし読んでみると、これがなかなか見どころの多い、爽やかでほろ苦い青春ラブストーリーに仕上がっているのだ。
お話の内容は、4年前に沖縄本島に出ていった兄・洋太郎のもとへ、血のつながらない妹・カオルが、高校進学のため移り住んで来るところからスタート。すっかり美しく成長したカオルに最初は驚く洋太郎だが、すぐに昔の兄妹に戻った2人は、貧しいながらも2人一緒の楽しい暮らしを始めていく。しかし子どものころから洋太郎を慕っていたカオルは、兄に本島でできた彼女・恵子がいることを知り、少し複雑な気分に。また恵子のほうも、洋太郎とカオルの間の結びつきの強さを目の当たりにして、ヤキモチまじりな気持ちを味わう。その後、洋太郎が飲食店を開業しようとためていた金をだまし取られるという事件が起きたこともあり、彼らの関係は急速にきしみ始めていくのだった……。
■「涙そうそう」 作:吉田紀子+画:山田秀樹 幻冬舎コミックス
|
■すっかり美しくなってしまった妹・カオルに兄・洋太郎はドキドキ。「兄ィニィ」という呼び名の甘えた響きも萌えポインツ(8ページ)
|
といったところが大まかなあらすじ。まあその後の展開についてはネタバレになるから詳しくは書かないんだけど、本作品では作画を担当した山田秀樹の絵が抜群にイイ。スッキリ爽やかでキラめくような質感があり、力強さも感じさせる絵柄が実に鮮烈。沖縄の美しい自然、女性キャラの弾けるような美しさがスパッと目に飛び込んで来る。
特に妹のカオルの美しさは絶品。すっかり美しくなってはいるけど、やんちゃでちょっと甘えん坊なところも残した妹っぷりがたいへんグッと来る。お兄ちゃん、あんちゃん、アニキ……と、妹から兄に対する呼称はいろいろあるけれども、これからは「兄ィニィ」の時代だぜ!などという気にもなってくる。正直なところ「涙そうそう」でこれだけ萌えるとは思わなかった。これなら兄ィニィが、自分の身を犠牲にしてまで頑張っちゃおうと思うのも無理もない。
とはいえ正直なところ、終盤の展開については、ちと急ぎ足すぎな感があり、洋太郎に降りかかる悲運は、唐突に過ぎるようにも思えた。そんなわけでストーリー面では「惜しい」という出来ではあるのだが、爽やかで甘く、そして切なくほろ苦い物語をしっかり描き出す山田秀樹の力量は注目に値する。イラストについてはこれまでもいろいろと手がけてきた人のようだが、漫画についてはこれが初単行本。ぜひこれを機会に覚えておきたい新鋭だ。
■しばた@OHPのオススメ漫画の過去記事はこちら