この優しくも美しき世界「水惑星年代記」
2006年07月31日 16:10
(しばた@OHPのオススメ漫画)
これはしみじみ良い作品だなあ……。今回紹介する「水惑星年代記」を雑誌で読むたびに常々そう思っていたのだけど、ようやく単行本1冊目が発売されたので、さっそくこちらでも取り上げさせていただきます。
本作は、地球と宇宙をまっすぐつなぐ「軌道エレベーター」ができた時代の、宇宙と地球を舞台にした読切連作シリーズ。というとバリバリの宇宙モノのように思えるかもしれないけど、お話のほうはむしろ地球側を中心にして展開される。また読切の各エピソードのメインとなるのは、軌道エレベーターで働く人から、星を見るのが好きな少年少女まで、宇宙との関わり合い方やその距離もさまざま。
そんなわけで全体を貫く大きなストーリー自体はなく、各エピソードは独立しているのだが、これが読んでいてものすごく気持ちイイ! その時代に生きるごく普通の人々の、青春・恋愛を等身大で描き出していくストーリーは、実に爽やかで、ときに甘ったるくもある。例えば、星を見るのが大好きな転校生の少年と、同じクラスのガリ勉系めがねっ娘女子の恋心が育っていく様子を描いた「宇宙を向いて歩こう」は、二人の様子がなんとも微笑ましく、ヒロインもすごくかわいらしくて、甘酸っぱさに胸がキュンキュンときめいてしまう。
■「水惑星年代記」 大石まさる 少年画報社
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■カケアミを多用した柔らかいタッチは、暖かみがあってとってもきれい。この画像サイズではその良さがイマイチ伝わらないと思うので、ぜひ単行本で読んでみてくだされ(118ページ)
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大石まさるの作画がこれまたイイ。これまで大石まさるは、どっちかというとカッチリした感じのコミカルな絵で作品を描いてくることが多かったのだが、それが本連載では一変。カケアミ(暗い部分や濃い色を表現するさいに、ベタで塗りつぶすのではなく、細かい線を集めて黒っぽく見せる技法)を多用し、光をしっかりと描き出す、淡く柔らかく暖かみのある絵作りが実に美しい。
また女性キャラの作画も素晴らしい。ときに無邪気に、ときに快活に、そして時に色っぽく艶やかに……と、さまざまな表情・ポーズを見せてくれて、なんとも惹きつけられるものがある。ちょっぴり大人な色気のある女性から、ハツラツとした元気娘、陽気でおっぱいのデカい外人かーさんまで、作者自身がすごく楽しんで描いてるのが伝わってくる。
元々大石まさるは、楽しい作品やちょっとエッチっぽい作品も描ける人だったけど、今回はそこにしっとりとした情感も加わって、甘くて爽やか、かつ懐かしく暖かく、胸にしみるような世界を作り出している。これまでも好きな作家ではあったけど、今回の作品は「すごく化けたなあ」と毎回驚かされている。なおこの単行本には「1巻」といった巻数表示はないけど、連載のほうは現在もヤングキングアワーズ(少年画報社)で継続中。「続きをもっと読みたい!」って人は、読切シリーズなので途中から読んでも十分面白いので、ぜひ雑誌のほうもチェックしてみてほしい。
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