涙が出るほど愛しい日々「愛しのかな」
2006年08月06日 17:01
(しばた@OHPのオススメ漫画)
田中ユタカといえば、ものすごーく甘ずっぱくて優しい初体験エッチマンガをずっと描き続けてきた、マンガ界きっての初恋初エッチ物語の名手だ。その最新作である「愛しのかな」も、実に田中ユタカらしい、愛情がギュッとたっぷりつまった、瑞々しい甘さに満ちた一作に仕上がっている。
本作の主人公は、仕事と住むところをいっぺんになくして何をやってもダメな状態にあった純朴な青年・天野大吉。そんな状況で途方に暮れていた大吉は、なんとか古アパートを借りるものの、そのアパートは以前少女が自殺して以来、廃墟に近い状態になっていたいわくつきの物件。そこで大吉は、自殺した少女の幽霊であるかなと出会う。かなはなぜか大吉の目には見えるし、触れることもできる。そして一緒に暮らすうちに二人は惹かれ合い、恋人同士になっていく。
■「愛しのかな」1巻~ 田中ユタカ 竹書房
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■大吉と幽霊少女かなは、毎日を大切にしながら力いっぱい愛し合う。そのラブラブな様子は実に甘ったるく、鮮烈な輝きに満ちている(第1巻67ページ)
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というわけで本作ではこの二人の同棲生活が描かれていくのだが、その様子は実に楽しく暖かく、そして甘ったるさたっぷり。二人はお互いのことをどんどん好きになり、エッチもし、毎日力いっぱい愛し合う。その仲睦まじさ、イチャつきっぷりはこれでもかってなくらいで、読んでいるほうまで甘ったるいラブラブ気分に満たされてしまう。
ただし甘ったるいだけでないのがこの作品の素晴らしいところ。かなは幽霊であるだけに、いつ成仏して大吉の前から消えてしまわないとも限らない。大吉とかなの愛情が深まれば深まるほど、その不安が増大して、切なさがこみ上げてくる。それだけに二人が愛し合っている今という瞬間がとても大切なものに感じられて、微笑ましい気分になると同時に、泣けてきたりもする。かなは幽霊とは思えないほどに快活で天真爛漫。キュートでピチピチしているし、一つ一つの仕草も愛くるしい。そんな眩しすぎる彼女の姿を見ていると、「彼女がずっと消えないでほしい」という想いに胸がキュンとしちゃって、もうたまらないのだ。
田中ユタカは、その作家としてのキャリアの集大成的な作品である「愛人-AIREN-」で全力を出しきって以降、個人的にはもう一つノレてないかなという印象があったのだが、本作ではまた再び愛情たっぷりの田中ユタカ節が完全復調した感がある。これほどまでに男女がお互いを「愛しい」「大好き」と思う気持ちに真っ正面から向かい合い、照れたりすることなくストレートにその気持ちを作品に出してくる作家というのはそうそういない。田中ユタカの作品は、愛しい人がいること、一緒にいられること、愛し合えることの素晴らしさを歌い上げる。その見事なまでにまっすぐな純愛っぷりを、ぜひ味わってみてほしい。
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