かわいいが正義かどうかは分からない「世界の孫」
2006年09月25日 16:51
(しばた@OHPのオススメ漫画)
「世界の孫」。タイトルからも分かるとおり、この作品は、携帯電話会社や球団経営まで幅広く手がける某IT企業の、頭部がテカテカした成金社長の生涯を描いた一代記である。……などという誰でも考えつくような下らないボケはここまでにして。実際のところは、ものすごい「孫っぽい」顔および態度で、人々の孫かわいがり心を刺激してやまない、一人の少女を描いたギャグ漫画である。念のために書いておくと、ここでいう「孫」は「そん」ではなく「まご」と読み、「ある人物の子供の子供」のことを指す言葉である。
本作は、主人公である女の子、甘栗甘水(あまぐり・あまみ)がとある中学校に編入してくるところから始まる。彼女は中学生であるにも関わらず、その顔、振る舞いなど、全身から発するオーラが、まさしく幼年の、かわいいさかりのお孫さんのもの。ぷっくらと膨らんだほっぺた、尖った口もと、ちょこちょこ歩く足取り。普段は力いっぱい遊び回り、お腹が空いたり疲れたりするとすぐむずかる。何かというと人を頼り、上目づかいでものほしげに見つめてくる。ルックス、行動、態度、そのすべてがもう「孫」としかいいようがないものなのだ。そんな甘水を一目見るや、老人はもう孫かわいさにメロメロ。しかも同世代の少年少女たちをも、孫にかまいたい、甘やかしたいという気持ちでいっぱいにしてしまう。
■「世界の孫」1巻~ SABE 講談社
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■甘栗甘水は究極にして至高の「孫っぽい」ルックス&態度の持ち主。その孫顔で老若男女の孫かわいがり心をトロけさせる魔性のお孫だ(第1巻4ページ)
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というわけで、本作では甘水に骨抜きにされてしまった老人や同級生たち、そして甘水に学園での立場を奪われたライバルキャラたちによる、「孫的存在」をめぐる騒動が描かれていく。SABEといえば、あまりメジャーとはいえないが、マイナーシーンではそのぶっ飛んだ作風で一部に熱烈な支持層を持つ作家。本作はアフタヌーンと、まあまあメジャーな雑誌に連載されている作品ながら、その独自性あふれまくりな作風は、この作品でもバリバリ発揮されている。
そもそも「孫かわいがり」に着目して、その麻薬的な悦楽をギャグにしちゃってるところからしてユニークすぎるし、登場人物たちもヘンな人ばかり。甘水登場以前は学園のお姉さん的キャラとして定着していた女教師のイカ子先生は、身体のいたるところに生イカを仕込んでいるような変態さん。同じく妹キャラとしてブイブイいわせていた尚和も学園内で爆弾使ったり、妹キャラのくせに邪悪なことこのうえない。さらに甘水の世話係に任命された委員長が、孫の魅力に酔いしれ、どんどん人格崩壊していく様子もムチャクチャ面白い。
甘水を除く登場人物はみんな目の光がだんだんギラギラしてきて常軌を逸していくし、イカ子先生、委員長らのクレイジーぶりも回を重ねるごとにエスカレート。ぶっ壊れたキャラたちが、予想外の行動を続けていくので、先の展開がまったく予想できない。1巻の時点では収録されていないけど、雑誌で連載されているそれ以降の話もどんどんぶっ飛んできている。この孫ワールドがいったいどこまで拡がっていってしまうのか、要注目だ。
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